特集 ゼネコン総崩れ【福島県発・構造改革】( 2002/6/22 )




介護参入で雇用と受注を確保
民事再生法で業者を8割削減


「痛みを伴う構造改革」は、建設業に端的に表れた。2001年度の建設業の倒産は、6049件(帝国データバンク調べ)。1984年度の5909件を上回り、最悪の記録を更新した。とりわけ、その痛みは財政が逼迫する地方に集中している。だが、座して死を待つわけにはいかない。逆境に置かれた地方から、建設業の構造改革が始まった。


 「みなさんのなかで、高齢者と同居の方は何人いますか」
 福島市の郊外にある建設資材会社の2階。会議室を埋め尽くした参加者44人のうち、10人が躊躇しながら手を挙げた。時折、講師が質問を挟みながら続けられた講義は、7時間にも及んだ。この日のテーマは「在宅介護」と「住宅・福祉用具」の基礎知識。二級ヘルパー(訪問介護員)の養成研修である。

 目につくのは、作業着姿の男性の多さだ。なにしろ、参加者は若手から中高年まで、すべて建設会社の社員である。じつはこの研修、福島県建設業協会(380社加盟)が発案し、会員企業に呼びかけて今年1月からスタートした。協会の狙いは、会員企業がリストラした場合の「失業なき労働移動」とともに、「介護施設の建設需要」を開拓することだ。

 「介護事業は有望だろう。ただ、会社に指示されたので、私も周りの社員も参加したが、将来、ヘルパーの仕事に就くかどうかは別問題だ」

 終了後、50代の男性は疲れ気味の表情でこう洩らす。介護サービスに対する意欲は定かではないが、130時間の研修を終えて、身体介護が任されるへルパー2級の資格を取得した人は、これまでに県内四地区で157人に達した。

■少子高齢化に着目して97年から介護参入を検討

「介護事業への参入は、97年から検討を続けてきた。福島県では、介護を必要とする人が2000年の28万人から、2025年には52万人にまで増える。建設市場が激減しても、介護の市場は伸びると考えた」

 福島県建設業協会の佐藤勝三会長は、業界の生残りに向け新たな舵を切った経緯こう語った。

 民間も含めた県内の建設投資は、ピーク時には1兆8000億円にも達したが、今は6000億円を割る状態だ。今年度の公共事業の予算(当初)にしても、福島県は14.7%の減、県内の市町村は3割もの減少が見込まれている。

 県内の建設業者の倒産件数(帝国データバンク福島支店調べ)は、昨年初めて106件と3ケタの大台を突破し、97年から7割も増えた。

 これまで多くの失業者を受け入れてきた建設業が、今度は労働者の受入れ先を探さなくてはならない時代に変わったのだ。その必要性は、下請けという数多くの外部発注先に依存する中央のゼネコンよりも、自らが社員を抱えて仕事をこなす地方の建設業者のほうが断然高い。

 こうしたなかで、協会が目をつけたのが、介護市場だ。県内の全人口に占める65歳以上の人口は、2000年が20.3%と、全国平均の17.4%を上回っている。

 在宅介護サービスの事業化の第一弾として、昨年11月、協会の正副会長が自ら出資して立ち上げたのが、潟Pア・ビルダーだ。目的の一つは、福島県建設業協同組合(融資や資材調達を担当)が主催するへルパー養成研修の修了者を登録したうえで、在宅介護に派遣することにある(次ページのチャート参照)。

 第1期目の研修が3月に終わったばかりで、実際の派遣はこれからだが、介護事業の一つのマーケットを、在宅介護サービスの事業者が少ない過疎地へのへルパー派遣に定めた。

 「大手業者が過疎地から撤退したのは、移動に時間がかかり人口密度が低いため、採算に合わないからだ。しかし、建設業者は県内に1万1000社を数え、どんなに小さな村にもある」(佐藤会長)

■温泉街の空き旅館をケア付きマンションに改修
 だが、採算に合わないとされる過疎地域に入り込む建設業の勝算はどこにあるのか。
 協会は、個々の業者が建設と介護事業を展開する兼業のスタイルを基本モデルに想定している。ケア・ビルダーの黒澤清専務は、双方の相乗効果を生むポイントに、自社の「リフォーム情報の収集」を挙げる。

 「スロープの角度や、通路とドアの位置、さらに玄関から道路に出るまでのバリアフリー化など、ヘルパーには介護の相手からリフォームの要望が集まってくるが、それが建設業者の耳になかなか入っていかない。そこで、当社が集めた情報を建設業者に提供し、業者は住宅リフォームの仕事を取る。これがうまくいけば、介護は収支トントンでもリフォームの仕事で収益を上げられ、他の介護事業者と競合することもない」

 だが、男性へルパー中心の在宅介護サービスの市場には限界もある。客のニーズは、女性へルパーに集まるからだ。黒澤専務も「男性ヘルパーは、特養老人ホームなどで要介護者を風呂に入れたり、車椅子の乗り降りを介助するなど、力仕事が必要となる施設介護サービスに向く」と、指摘する。

 このため、協会は在宅分野だけでなく、施設介護の分野も事業の柱に据えた。過疎地の在宅介護に対して、施設介護は都市部が中心だ。

 各家を1軒ずつ回る訪問介護と違い、1カ所に要介護者が集まる施設であれば、ヘルパーの作業効率も高まる。また、県のデータでも、2001年度の要介護者(要支援者含む)は、施設が在宅の2.6倍の規模で、今後も市場拡大が見込まれている。

 会員企業のなかから、施設を建設し、自ら運営する実例も生まれた。協会の副会長を務める共立土建(社員37人)は、数年前からヘルパー派遣事業を独自に立ち上げ、社会福祉法人を設立。この6月には、特養老人ホームも竣工した。施設の雇用者数は130人強と、建設会社の3倍以上に拡大している。

 6月5日、建設業協会の佐藤会長は、施設介護事業の具体化に向け、アプローチを始めた。足を運んだ相手は、飯坂町商工会の菱田良雄会長だった。

 協会が事前に手渡した提案書のタイトルは「飯坂温泉の活性化に向けて」。空き旅館(ホテル)をケア付きのマンションに改修するなど、さまざまなアイディアが盛り込まれた。

 建物の低層部に、特養老人ホームやデイサービスセンター(日帰りで受けられる通所介護)、娯楽施設などを入れた場合に、各建物の上層部にはどのような施設が効果的なのか。住宅や旅館客室などとの組合せと事業収支を、シミュレーションしたものだ。特徴は、温泉街の再生策と協会側の初期投資の抑制策という、双方のメリットを追求した点にある。

■再生後に合併することがスポンサー契約の条件

「昨年は、元請けで組織する協会から19社が退会した。このうち14社が倒産というかつてない事態に至った。建設投資の減り具合からみると、今年は倒産が2倍になってもおかしくない状況だ」

 介護事業に光明を見出す一方で、地方の受注環境の厳しさに、佐藤会長の危機感は強まるばかりだ。

 生残りを模索する再編が進まないことで、減り続ける市場規模とのミスマッチが生まれ、市場から弾き飛ばきれる業者が後を絶たない。

 5月30日には、公共工事を主体とする地元の老舗、秋葉工業が民事再生法の適用を申請した。じつはこの企業が、7月をメドに協会が中心となって立ち上げる予定の再建ファンド(基金)の適用第1号になる可能性が高まってきた。





目標は二級ヘルパー1万人
リフォーム需要の開拓にも期待


福島県建設業協会
佐藤勝三会長



なぜ、介護事業に参入したのか。

  福島県の建設業協同組合の理事長を務めていた97年から、活路開拓検討委員会という組織で介護サービス事業の勉強を続けてきた。そのなかで、介護市場は伸びると考えた。全国の建設業の雇用は97年度の685万人から2003年度には600万人を切る状況になると予測されているが、要介護者は医療福祉を入れると300万人にまで増えるとみられている。

 ヘルパー研修は、建設の仕事を続けるなかでも、リフォームなど新しい事業開発のメリットが生まれると考えている。ケア・ビルダーという会社をつくったのも、そのためだ。


ヘルパー研修に参加している建設会社の意識はどうか。

 なぜ、建設業の人間が参加するのか、という意識があるのは事実だ。しかし、仕事がなく会社で休んでいるなら、ヘルパー2級の資格を取ったほうがいい。これは、協会が率先して進めている。介護事業を進めていく基本的なインフラとして、今年は2級ヘルパー2000人を目標に定め、3年で1万人に増やしたい。将来、建設業をやめた場合でも、ヘルパーの資格を持っていれば、年金以外の収入にもなる。

飯坂温泉の高齢者向けマンションは、どう具体化させるのか。

 今後、旅館の組合や観光協会などと話し合いながら、件や市も巻き込んで進めていきたい。今回、提案した内容は、今生きている旅館が、倒れる前に方向転換する方法としても考えられる。たとえば、建物の低層部を娯楽や生涯学習の施設、上層部は高齢者ケア付き住宅にすれば、介護が必要な人たちだけではなく、元気な人が平日にも訪れるようになる。

再建ファンド構想のきっかけは。

 前から、大手だけがなぜ債務免除を受けて堂々とやっているのだと言ってきた。中小企業だって 債務免 へ除を受けてもいいのではないかと。だが、債務免除を受ける方法がなかった。そこに、民事再生法が誕生しこれを活用してはどうかと考えた。

再建の条件として、受注額を半分以下にした理由は、債務免除を受けた会社があまり元気になっては困るからか。

 それは、裏の話だ。確かに、民事再生で債務が9割カットになって元気になられたのでは、今まで一生懸命やってきて借金で四苦八苦している業者が大変だ。だから、スポンサーが株主になって3年間は前年の半分以上の仕事を取らせない。だが、現実に半分以上取るのは大変だと思う。なぜなら、小泉さんは都市再生に力を入れ、地方をいじめている。東京が、一極で生き残っても意味がないと思うが。



■再建中は受注額が半減でも合併で喧嘩ができる会社に

実際に五社を一社にまとめる場合、各社の社長の親分意識がじゃまにならないか。

 だから、初めから合併を条件に再建相手を選別する。こちらが100%の株を握っているのだから、合併させる権利がある。3年後には、成績のいい会社の社長が残り、ほかの社長は役員となって五社で合併しなさいということだ。県内業者の完工高で、一番多いのは5億円ぐらいだ。つまり、再建中は半分の2億5000万円だが、こういう会社が5社集まると12億円ぐらいの会社になり、他の元気な会社と喧嘩ができるようになる。やはり、仕事がない時もあるので、これぐらいの規模がないと雇用を維持できない。

当初は規模半減でも、あくまでも復活を目的とした枠組みであると。

 そうだ。ある曰突然、社長がいなくなって社員が路頭に迷い、債権者に迷惑をかけるのではなく、目安をきちんと付けて、もう1回がんばってみたらどうかということだ。再生会社の資金繰りは、公共事業が主体の会社が8割以上だから問題ない。前途金の制度もあるし、セーフティネット債務保証事業もあるから出来高の9割は借りられる。

建設業協会内では、ほかにも生残り策を検討しているというが。

 経営活性化委員会で、民事再生法による5社合併(経営再建型)を含め、4つのスキームをつくって検討している。一つは、協会の18支部を8支部に再編して 各地域の元気な会社が1社ずつ集まって8社連合をつくってはどうかと考えている(積極的再編型)。これは、よいものをより安く顧客に提供するための連携だ。次に、仕事が減っても経営を維持するための仕組みづくり(健全経営維持型)、そして会員が県内外、業種を問わず、M&Aを活用して元気になる方法(M&A型)だ。




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